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GovtechやDXというけれど…

地方自治体の行革&業務改善担当者のぐだぐだをぐだぐだと書く

dAi221
Jan 27, 2021

地方自治体のデジタル化の実態って実際どうなの?

こんにちは、某A市で働いている事務系中堅職員です。2019年は「日本のGovtech元年」として狭い界隈で機運の盛り上がりをみせつつ、2020年にはデジタル庁設立に向けて大きく動き出すなど、本格的に行政全体のデジタル化が進みそうな(何度目かの)季節を迎えていますね。今回はDX(デジタル・トランスフォーメーション)なんて呼ばれています。「デジタル化」と「DX」は変革のレイヤー/質に違いがあるようですが、ここでは一旦置いておきます。
Govtechは行政とベンチャーやスタートアップ系のテック企業が手を結んで効率的/効果的な行政サービスの提供を実現させる概念と捉えています。確かに、LINEの他にサイボウズ、グラファー、パブリテック(トラストバンク)なんて今までだったら、行政とは関わらなかったであろう、新しい企業の名前をよく見聞きするように、この2年くらいで急速になっています。では、Govtechの「Gov」側、例えば都市部にある人口10万人規模の自治体の実態ってどんな感じなのでしょうか?今年の春くらいから私が関わったり見聞きした事例を紹介していきたいと思います。

予防線

これはdAi221個人の記憶と感想による記事であり、もちろん所属する団体の意思・見解ではなく、記憶違いや事実誤認も含まれます。

今年度から少し職場環境が変わりました

就職してから税や国保などゴリゴリの現場で10年くらい働いたあと、内部調整系の部署に異動し2年を過ごし、コロナ禍の中で迎えた2020年度、新設の課に配属され「行財政改革」と「業務改善(new!)」の事務分掌(=仕事の定義)を与えられました。新しい風(ふう)なセクションなこともあり、上司の「フリーアドレスにしようぜ!」という発案で、個人デスクが撤去され、長机で仕事することになりました。ここに便乗して、大きめのディスプレイを真ん中に置いて、職場内の情報共有を捗らせたろうと思ったのですが、PCに繋ぐ機器の新規購入は少々やっかいな手続きがあり、めんどくささを避け、他の職場から使ってないやつを貰ってきました。いきなりしょっぱい話ですが、ここで語られるのはこんな立ち位置からの話です。

10万円給付の話

出血を最小限にすることで精いっぱいでした
4月末、土壇場で「1人10万円給付」に転じた特別定額給付金では、急ごしらえの給付担当チームの後方支援として、マイナポータル受付分と紙申告受付分、それぞれの処理ツールをACCESS(office系のデータベースソフト)で作成しながらフローを組んでいきました。この辺りの実情は今年のCode for Japanサミットで詳しく語られています(https://www.youtube.com/watch?v=emyCeGYGnqM)。簡単に言うと、超絶属人的内製、再現性なし、現場の効率化を最優先したその場しのぎの部分最適化による全然Govtechとは程遠い解法で、なんとか出血を最小限に留めたといったことろです。

マイナポータル経由申請の処理フロー図

実は小さい自治体ほどうまくで捌くことができたのでは?
マイナンバーカードを使ったオンライン申請については、申請後業務がどう流れて行くのか全く考慮されてなかったことに輪をかけて、そもそもデータとして扱うには難があるものが送信されてくることが、大混乱の主因でした。データがデータとして取り扱いやすい状態で受け入れできたら、自治体の基幹システムがどんなものであろうが、その前段階処理でやりようがあったと思います。付帯項目が諸々あるとはいえ、基本的には世帯に一律の金額給付する分かりやすい事務なので、データの取り回しさえできれば、小さい自治体ほど基幹システムに依存せずに処理できたのではないでしょうか。「うまくいかなかった」自治体と「うまくいった」自治体がピックアップされがちですが、「危ういところで何とか乗り切った」自治体の検証も必要かと考えます。

情報が最大の資源
とにかく時間がなく(私の場合は直接の担当者でないので)情報が遠いところにいた中で、これまでcivic techコミュニティやCovid19対策サイトのお手伝いで知り合った他市の職員、facebookの情報系行政関係者コミュニティなどで最新の情報を集めることができ、ギリギリ綱を渡り切れました。自治体を超えた、疎なコミュニティが複数あるというのは、これからのプラスの兆しの1つだと思います。また、湖南市の谷畑市長(当時)が国から降りてきた情報と湖南市の動きを逐一facebookで報告されていたのも大変に参考になりました。情報をスピーディーにオープンにすること、共有することは、それだけで大きな貢献になることを実感しました。

審議会の改善について

「審議会」は色んな人の時間を食います
行政では、「○○審議会」といった、外部有識者と呼ばれる大学の先生など専門家の方による会議がしばしば行われます。現在、私が関わっている行財政改革計画の策定にあたっても、複数の外部有機者による会議を開催する必要がありました。従来は、事前に委員の皆様のもとに直接伺い、事前相談を行った上で、会議当日に役所に集まっていただき2時間程度の会議を行っていました。さらにその後、次回の開催まで議事録を作成し、各委員の方に確認をお願いして、ホームページに掲載します。もちろん委員の方と行政側の出席者に対して会議日程の調整も必要です。

市役所にもZOOMがきた
今年度、コロナ禍により対面で外部の方と会うことが難しくなったタイミングで、市役所内でも急速にZOOMによるオンライン会議が進みました。ただし、業務情報を扱う環境でオンライン会議ツールを使うリスクは避けて(とういうのと、業務系で使える仮想デスクトップのネット回線の脆弱さで)、業務系とは切り離された、通常のインターネット環境で運用するiPadでのみで利用しています。そこで、この機会に、委員の方との事前協議と会議本番を積極的にオンライン化することにしました。

オンラインでできるようになったこと
これにより、従来ならば委員は近隣の方にのみお願いしていたところを、関東在住のファシリティマネジメント専門家の方にお願いすることができました。また、委員長の先生とは事前相談をオンラインで行い、職員数人で出張を複数回する必要がなくなり、時間と出張費を稼ぐこともできました。遠隔参加も可能にしたことで、会議当日の日程調整もしやすくなりました。副次的には、これまで大量に印刷していた資料について、委員の方に「紙で資料欲しいですか?」とお聞きしたら、皆さんから「不要」と回答いただき、電子で送付することで手間とコストを減らすこともできました。

こんな環境で会議しました
最終的に、5人の委員の会議体で、委員2人はリアルに出席、3人がオンラインで出席というスタイルになりました。機材については、このために新たに購入したものはなく、既存のiPadとプロジェクター、後述する音声認識による自動文字起こしツールのために準備していたマイクミキサーとスピーカーのみで対応しました。

自動文字起こしツールを使ってみた
こういった公式な会議については、議事録を公開する必要があります。通常はテープ起こしを外部委託するか、職員が作業するかでした。外部委託の場合、実は業者の当たり外れがあるのと、納期に1週間程度かかります。職員の場合は1日あればテキスト化できますが、当然、その作業分は他の業務時間が食われることになり、一長一短がありました。そこで、最近流行りの音声認識による文字起こしツールを使ってみることにしました。

うまくツールが動いても時間がかかる
自動文字起こしツールは、以前からテストを行っていました。リアルタイムで発話がテキスト化され、その場で修正するタイプのものは、環境作りと人員の配置がめんどくさそうだったので、録音データをアップロードして後から文字起こしと修正をするタイプのツールを有力視していました。ここで、「機械判読できるように音声をキレイに録音する」ための環境整備に意外と時間がかかってしまったのですが、審議会には間に合い、チャレンジすることができました。1回目と2回目の会議は文字起こしされたテキストをツール付属のエディタで(回線が脆弱すぎて音声データが重いと挙動がおかしいなどの陰謀と戦いながら)修正したのですが、認識精度がそこそこよくても、発言全てを「一言一句」きれいな議事録を作ろうとすると録音時間の5倍程度の時間がかかってしまいました。

議事録に必要な使い方に変えてみた
どうしたもんかなと思っていたところ、同僚が、審議会などの議事録は「原則、発言者ごとの要旨とする」という内規にあることに気づき教えてくれました。そこで、運用を改め、会議当日にテキストで発言要旨をリアルタイムでワードで記録しておいて、後から音声と文字起こしされた、そこそこの精度のテキストを補助的に参照しながら、議事録として整えていくことにしました。エディタはテキストと音声の時間が紐づいているので、作業効率がよく修正ができ、この運用で録音時間の2倍程度で作成できることが分かりました。

一番効果が出た改善は

ECRS(イクルス)の法則大事ですよね

そして、これまでは5~6回行われていた会議について、本当にこれだけの回数が必要なのか疑問を持ったので、この会議のアウトプットの計画への影響と、業務のタイムラインのバランスを考え、3回に減らしたことが、一番の改善になりました。減らすは正義。内容についても、委員の選定や資料の作成をこちら側で明確に方針を持って行ったこともあり、充実した答申(アウトプット)がいただけたのではないかと思っています。

チャットツールについて

行政専用チャットツールがあります
今年の夏から、LGWAN(地方自治体専用通信網)内でつかえる行政向けビジネスチャットツールを試用しています。今年度中は無料なので(予算ないのでタダが好きです)年度中でもスムーズに試験導入を開始できました。まず、行政をターゲットにしている開発事業者の製品ということで、スマホアプリも含めて、セキュリティ面・運用面で行政が気になる点を丁寧に潰しており、「わかってるな」という印象を受けました。また内部調整のためのエビデンスや資料、説明会も充実している上に、導入自治体の職員同士の情報交換を促進するユーザーグループもうまく運用しており、なるほど、これが“緩い囲い込み”かと感心しています。

これって「いつか来た道」?
通常の業務環境+BYODでチャットが使えるのは、デジタル適正のある職員にとってはかなり便利で、グループでの非対面コミュニケーションや、会議中・移動中のちょっとした内職が捗ります。
でもこれはきっと、チャットが定着している人たちのコミュニケーションではすでに起こっている「だんだんチャットの種類と連絡チャンネルが増えすぎてコミュニケーションの管理ができなくなる」「チャットにのれない人がボトルネックになり全体のコミュニケーションが滞る」みたいな、いつか来た道が、やっと見えてきただけとも言えます。業務情報を扱うならセキュアなビジネスチャットじゃないとね、というのはその通りなんですが。

これはコミュニケーションの話
LGWANで使えるのはとてもいいと思います。使えるならもちろん使いたい。それなら自治体それぞれでバラバラのもの調達するの?っていう気もするし、ユーザーグループも行政職員間のやりとりはもっとオープンなプラットフォームで盛り上がった方が健全ですよね、なんてもことも思ったりしています。チャットを使うのが目的でないですし。メールだって、時代遅れな慣習をやめたら割と軽いコミュニケーションとれることも分かってきました。すぐに内線をかけるとか、「対面>電話>メール(>チャット)」で丁寧度に差がある文化ってそろそろどうなの?など、コミュニケーションのスピードと質をいかに高めるか、考えるべきことはありそうです。

Code for Japanとの連携について

A市-CfJ-神戸市で連携していきます
今年度の初期に「来年度から業務改善の内製化を本気でやりたいんですけど!」と、神戸市職員からCode for Japan(以下CfJ)にとらば~ゆされた、Sさんに相談したところ、それやったら、一緒にできる部分で連携しませんかと、大変ありがたいお話しをいただきました。ちょうど同じタイミングで神戸市もCfJと同様の話をしておりA市-神戸市でも連携しましょうということで、日を合わせて、A市-CfJ、神戸市-CfJの連携協定を結ぶことができました。市長会見とかなしで地味にやろうぜ!と行っていたら、ほんとに地味な感じでスタートになりました笑。この取り組みを参加団体の頭文字をとって(ひっそりと)ACKと読んでいます。

みんなで何やってるの?
で、なにやっているかというと、A市の現場の困りごとをCfJと神戸市でよろず相談したり、その逆だったり、A市の若手向け業務改善研修を見学してもらって、そのあとに河原で弁当食べたり、週一回オンラインで雑談したり、年末に神戸市の改善コミュニティであるKTL(kobe tech leaders)とA市をオンラインで結び、個人の仕事を持ち寄って相談しながら作業する、いわゆる「もくもく会」を開催しました。
オンラインホワイートボード「miro」を使った、職員向けのワークショップを開催したときは、オンラインで参加職員にファシリをしている裏からCfJの方々からガンガンコメントが飛んできて、頭が破壊されそうになりました(危険)。

miro練習会の画面。便利なんですが、自治体の環境によっては使えないこともあるようです。

なんだかこうやって書くとぼんやりしていますね。でもですね、よくあるコンサルみたいに「分析の結果この業務はこのクラウドツールをドーンと入れたったらいいんですよ!」みたいな話を急にされても、現場は受け止めきれないし、そもそも予算ないんですよ。どっかでは適切にコストをかけていくステップに行くはずですが、今のフェーズは、庁内に「自分たちで改善できるんだ」「システムのことって自分たちで考えるんだ」というコミュニティをジワジワと作っていくことと、その上に重なる自治体を超えて、相談したりお互いの資源を普通にやりとりできる、大きなコミュニティのレイヤーを編んでいくことかなと思っています。

業務改善研修の後にみんなで川原でピクニック。(シートが小さい)

加古川市版decidim

オンラインで市民がまちづくりに直接に参加できる
10月にA市の隣の隣の加古川市もCfJと連携協定を結んで、ACKがACKK(アック→アックッ!)になりました。そして「加古川市 市民参加型合意形成プラットフォーム」が公開。これはスペインのバルセロナ市がOSSとして開発したオンライン上で意見交換からボトムアップの政策立案などまで行うプラットフォーム「decidim」をCfJが日本版に翻訳したもので、日本で初めて稼働しました。以前からdecidimとか台湾の同じような思想で運用されてるvTaiwanを知ってる界隈の人には「おーすげー!」って感じだと思います。いわゆる「まちづくり」の間口を広げそうですよね。

実際行政職員はどう思ってるのか
一方で、たぶん自治体職員の多くの感想としては「んー、うまくいのかなー?」という感じだと思うんです。それは、市民意見を聞こうとしたとき、ほとんどの人は賛成でも反対でもなく「興味がない」で行政に届くのは一部の「声が大きい」人だというのがこれまでの体験として刷り込まれているし、それは現状としてはおおよそ間違ってないからだと思います。それから、「まちのことは、仕事としてまちのことを考えている職員や議員が考えるべきだ」というこれまでの思想がまだ根強いのかもしれません(これについては、本当にそう思ってるのか建前としてのべき論なのかはよくわかりませんが)。現在どの自治体でも行っているパブリックコメントではなかなか市民の意見が取りれにくいよね、と言われていますが、その課題がプラットフォームを変えても解消しないのでは?ということです。

信頼関係を築く
私も一応、行政職員なのでこの考え方は、まぁ分かります。ですよねーみたいな。でもというか、だから、どこかで違うモードに反転させることができないと、Govtechも行政のDXも「市民サービスを向上させる」目的は達成できないと思っています。
例えば、コロナ接触確認アプリがリリースされた際、ITや行政に近いところにいる人たち界隈(具体的に言うと私のfacebookのタイムラインです)では希望とはいかないまでも、期待を込めたムードがありました。一方で、行政から遠いところにいる人文・カルチャー系界隈(具体的に言うと私のTwitterのタイムラインです)では、不信とダメ出しが明らかに優勢でした。デジタル化の鍵の一つであるマイナンバー及びマイナンバーカードの活用にについてもの同じようなな趨勢があります。前者からみると後者の「理解不足」なのかもしれません。しかし、この状況は行政への「信頼不足」に起因していると感じます。信頼不足が理解不足を生み、行政が意図することが十分に進捗しない悪循環に陥ってるのが現状ではないでしょうか。行政は理解される前提として徹底的に「透明性を高め」「(身内に甘くならず)本音を話す」ことで信頼を少しずつ高めていく必要があり、そのための対話の場として、例えばdecidimのようなプラットフォームが使われるように、やってみて失敗して諦めずにチャレンジする価値があると考えます。

いかがでしたか?

“パッとしない・煮え切らない・予算ない”のGovtechやDXとは程遠い取り組み状況ですよね
反射的に事業者の方々にお声がけしてお話しさせてもらって「すいません、やっぱり今すぐには難しいです…」とトーンダウンすることも多々あり、申し訳ない気持ちになったり、理想と現状のギャップの大きさを直視してしまい、デスクで天を仰いだり机を見つめたりしてます。このままだと、本当にデジタル化した世界の恩恵を、市民サービスにつなげるところまで届かないのは重々わかっています。その上で、職員の小さな相談にのったり、若手にピボットテーブルやフローの書き方を教えたりして、少しでも業務負担を減らして、少し上からの視点を持つ余裕をつくったり、研修や説明会や庁内グループウェアで、組織の雰囲気を変える仕掛けをしていくような、地べたに近いところで、自分できることを、もうちょっとやっていきます。

フロー脳ゲームで業務フローの研修中。ツールの活用もファシリテーション次第。

あとは、事業者の参入の障壁を下げる部分と、公平性など守るべき部分のバランスが取れた(特にIT関連の)調達ガバナンスとルールの最適化、現場で勝手に改善を進めるタイプの職員や、「公共の利益のために」既存の枠を越境をする職員の育成など、組織の環境そのものの変革は必須になります。おそらく、本市のDXの肝はここになるはず。これは完全に自分の手に余るので、自分や仲間になってくれる職員や組織外の同志、上級職員のポジションの力を借りて、組織内ファシリテーションを「D=泥臭く、X=駆けずり回って」みようと思います(SNSでみかけていいなと思ったフレーズを拝借しました)。やり遂げるビジョンはもやもやしていてクリアには見えないけど。

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Written by dAi221

某自治体で細々と働いています。

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